A Story To Tell vol.1 "THE NOTORIOUS B.I.G."

Biggie at HoodStock Festival, Harlem in 1996
Pic: 伊藤 弥住子
懐かしいだけじゃない
90年代黄金期のヒップホップ!
1990年代はヒップホップの黄金期と言われています。
90 年代のヒット曲は今聞いてもとても気分がアガります。
Juicy MV *2.28 ~ 「ミサさん登場シーン」
クラブの花形「Juicy」
「Juicy」 もそのひとつ。「ジューシー・フルーツ」という昔のR&B曲をサンプルしたノリのいい曲で、あっという間に大ヒットしてしまいました。今から30年近く前、1994年のことでした。ブルックリンの中でもかなりゲトーなエリア、ベッドフォード・スタイヴサント (Bedford Stuyvesant) というところで育ったコワモテのハスラー、ビギー、なぜかスィートなコーラス (featuring Total) との相性が良く、たちまちクラブでヘヴィー・ローテーション曲になってしまいました。
日本との接点、ミサさん
仕掛け人はご存知、Pディディー。本名ショーン・ジョン・コムズ。昔はパフィーと呼ばれていました。本人曰く、日本通。その根拠は、前に付き合っていた彼女が日本人だったから、みたいです。「オレ日本とは縁が深いんだ。オレの元彼女のミサは日本人だよ。」という話を、私は何度もPディディー本人から聞きました。日本人の女性が大好きなのだそうです。というか、国籍は関係なく女性が好きなんだと思います。確かにミサさんの母親は日本人です。でも、ミサさんは私たちの常識でいう日本人とはちょっと違うかな、と思います。わりとゲトーな雰囲気を漂わせた人で、一見怖い感じです。ディディーのビデオのスタイリングをしたり、メアリーJブライジのスタイリストをしたり、業界でも一目置かれているようです。
あとで知ったのですが、この「Juicy」のビデオにもミサさんが登場します。エクステ金髪を結ったスタイルで赤ん坊(ディディーの息子、ジャスティン)を抱いています。
Biggie at the Source Award in 1995
Pic: 伊藤 弥住子
ブルックリンのハスラー、日常を語る
私が最初にビギーと会ったのは、「Juicy」が大ヒットした1994年のことです。ニューヨーク市の中心、マンハッタンに立ち上げたばかりのバッド・ボーイ・レコーズのオフィスでした。Biggie と名乗るだけあってデカい。縦にも横にもビッグなんです。身長192cm、デビュー当時の体重は150Kg という巨漢で圧倒されました。
日本の音楽雑誌用の取材ということでインタビューを申し込んだのですが、最初は会話がかみ合わず、気まずい思いをしました。そりゃそうですよね、「あなたのリリックの特徴は?」とか聞いても、答えづらいのは当たり前。私たちは平和な日本から来て、ブルックリンのフッドの毎日なんて想像できないのですから。
「自分の日常、周りで起こっていることをラップしてる。」と言われても……。クサを売買しているところを警察に見つかって逃げているシーンとか、フッドの仲間が銃で撃たれて死ぬとか…….。私たちの日常と違い過ぎるんですよね。
何度かビギーやディディー、リル・キム、リル・シーザー、フェイス・エヴァンスなどと取材やパーティーで会ったりしていくうちに、次第にビギーとの距離も少し縮まっていきました。「日本人の女、誰か紹介してくれよ。」とか、「日本のアーティストとのコラボとかもいいかもな。誰かいたらヨロシク。」みたいな話もできるようになりました。
Notorious Trailer *現在Amazon Primeにてレンタル 販売で視聴可能
親から子へ
小さい頃、ぽっちゃりして、ビギーにそっくりだった長男の CJ Wallace (母親はフェイス・エヴァンス)ももう24歳。年齢と共にスリムになってしまって、今ではあまり似ていないかも。現在は俳優として活躍しています。デビュー映画は、2009年に公開されたビギーの伝記映画「Notorious」。ビギーの実の息子がビギーの子供時代を演じるというので評判になりました。本名、Christopher Wallace 24歳で糾弾に倒れて亡くなったビギー、ラップではなくアクティングという異なったアートフォームではありますが、確実に父親のレガシーを引き継いでいるCJの今後の活躍が期待されます。
I Got A Story to tell Trailer *Netflixにて鑑賞可能
ドキュメンタリー映画 Biggie: I Got A Story To Tell
ビギーがLAで撃たれて亡くなったのは、今から24年前の1997年、3月9日、24歳という若さでした。今でも好きなラッパーのランキング、トップ5に入るほどの人気で、ネットフリックスのドキュメンタリー映画「Biggie: I Got A Story To Tell」が3月1日に公開になったばかりです。
製作には、ビギーの母親、ヴォレッタ・ウォラス、バッド・ボーイ・レコーズCEO のPディディーなどが全面的に関わっています。地元の仲間や、ビギーをよく知る業界人などのインタビューの他、これまで未発表の映像が満載。ビギーのフリースタイルや私生活を垣間見ることができます。
ビギーっていうと、ハードコアなヒップホップをイメージしがちですが、実は、スタイリスティックスとか、ドラマチックスとか、スウィートなR&Bが大好きだったそうです。ヒット曲、”Juicy” (Mtume のJuicy Fruitをサンプル)や、”Mo Money Mo Problems”(ダイアナ・ロスの曲、I’m Coming Out” をサンプル)を聴いてみると納得できますよね。今でも古さを感じさせないビギーのヒット曲の数々、この機会に聴いてみてはいかがでしょう。